腎臓病総合治療学講座
腎臓病総合治療学講座のご紹介
当講座は、①腎不全患者さんに腎代替療法 (血液透析、腹膜透析、腎移植)の選択の機会を提供する、②慢性腎不全患者さんのQOL、生存率改善を目標に診療および研究に取り組む、③腹膜透析専門看護師の育成、の3つを目的として平成23年 4月に設置され、平成26年 4月より、私が担当させていただいております。
腎代替療法において、血液透析と腹膜透析は互いに競合するものではなく、補完すべきものであるべきです。腹膜透析では血液透析に比して残腎機能が温存されやすいこと、残腎機能が保たれていることは生命予後に有利であることが報告されており、腹膜透析の利点と考えられています。一方で、腹膜透析の透析効率は血液透析ほど良好ではなく、残腎機能が廃絶した場合、腹膜透析単独では十分な透析がなされないという欠点があります。そこで、残腎機能が比較的保たれている間は腹膜透析を行い、残腎機能が廃絶した時点で血液透析の併用、移行を行うという導入方式 (integrated care approach)が、最初から血液透析で導入するよりも生命予後が良好であることが報告され (JASN 2000)、「PD first」の概念として受け入れられています。さらに、腎代替療法として腎移植まで総合的に捉えた、「包括的腎代替療法 (integrated renal replacement therapy)」を実践することが、患者さんのQOL、生存率改善のために必要です。
腹膜透析の日本での普及率は低く、H25年末における透析療法における割合は2.9%と減少傾向にあります。EPS (被嚢性腹膜硬化症)の予防や治療が解決できていないことなども理由のひとつですが、腹膜透析を実践していない施設が多いことや、そのような施設では腹膜透析に関する情報提供が十分なされていないこと、腹膜透析に関する医師や看護師の教育体制が整っていないこと、などが要因と考えられます。「経験がないから腹膜透析患者さんが増えず、患者さんが増えないので経験できない。」という悪循環をなくすことが必要です。
当講座では、院内のみならず院外からも、透析導入前の慢性腎不全患者さんを紹介頂き、腎代替療法についての相談を行い、導入後はご紹介頂いた御施設での通院透析を推進しています。腹膜透析も、ご希望であれば当院で維持管理しますが、約3~4割は地域の先生方で維持管理して頂いています。これまで腹膜透析を実施されていなかった御施設もありますが、そのような御施設からのスタッフ (医師・看護師)の研修も受け入れ、定期的に地域でのカンファレンスを行い、腹膜透析の普及を図っています。また、緊急時の対応は当院で行い、スムーズな連携を心がけています(図1)。
平成23年の講座開設までに当院で腹膜透析を導入した患者さんはたったの2人でしたが、講座開設後の3年間で30人を超え、現在は当院の透析導入患者さんの約2~3割は腹膜透析を選択するようになりました(図2、図3)。沖縄県全体においても、平成22年末 56人 (1.4%)と低迷していた腹膜透析普及率は、平成25年末 81人 (1.9%)に増加してきました。
当講座では、腹膜透析を強制しているわけではなく、「腎代替療法選択」としてPD firstの意義を説明し、適切な時期に血液透析に移行すべきことを事前に説明したうえで、患者さんの考え方、ライフスタイルや生活環境、身体状況を考慮しながら、療法選択を行っています。腹膜透析と決まっていなくても、是非お気軽に受診してください。
私自身は血液浄化療法部において、血液透析の管理も行っています。血液透析への移行や、多施設との連携もスムーズに行える体制を整えられるよう、心がけています。沖縄県における腎代替療法を中心とした慢性腎不全診療のお役に立てるよう尽力したいと思います。よろしくお願い申し上げます。
恒吉 章治
(図1)
(図2)
(図3)
腎代替療法についての説明
月・水の午前
担当医:恒吉 章治
*腎代替療法についての説明は、およそ腎機能が15%未満の患者さんが対象です。
事情によって、より早期での受診も可能です
受診をご希望の方は紹介状をお持ちください。
事前にご予約をお願いいたします。
ご予約:098-895-1371 琉球大学医学部附属病院 新患予約受付(シエント)
第三内科(腎臓内科)「腎代替療法選択外来」にご予約ください。
当院での腹膜透析患者導入数 34人
腹膜透析患者通院数 16人 (平成27年5月現在)
スタッフ
医師 恒吉章治 平成18年熊本大学医学部医学科卒業
日本内科学会(認定医)、日本透析医学会(専門医)、日本腎臓学会
看護師 宮里恵美 平成14年看護学校卒業 腹膜透析認定指導看護師 透析技術認定士
ご質問・お問い合わせ先→tsune@med.u-ryukyu.ac.jp
寄付講座 腎臓病総合治療学講座 富山 のぞみ
寄付講座 腎臓病総合治療学講座のご紹介
沖縄県の腹膜透析患者数は、日本透析医学会の統計調査によると、2009年の時点で73人であり、沖縄県全透析患者4012人のうちのわずか1.8%しか占めておらず、全国と比べても腹膜透析の普及が遅れています。
自宅で治療可能な腹膜透析は、腹膜炎などの感染症のリスクや、手技や緊急時の対処法をマスターしなければならない等の短所はありますが、透析導入前のライフスタイルを維持しやすいことや、血液透析に比べてカリウムや蛋白質の食事制限が緩やかである事、針を刺される苦痛がないこと、病院に拘束される時間が少ない事(通院は月に1~2回)など、長所も多くあります。大事なことは、患者様が腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)についてきちんと説明を受け、ご自分の病状やライフスタイルに合った治療法を選択することだと思います。当講座では、患者様に腎代替療法についてご説明し、ご自分に合った治療法を選択していただけるようサポートいたします。
腎不全教室のご案内
腎不全を進行させないためには食事療法(減塩・低蛋白食)や薬物療法、血圧の管理、血糖や脂質、尿酸のコントロールなどを総合的に行う必要があります。食事療法や家庭血圧の測定、適度な運動、感染症の予防など、患者様ご自身ができる事もたくさんあります。また、ご家族の協力も不可欠です。長くご自分の腎臓で生活していただくために、また、もし腎代替療法が必要になったとしても、ご自分にあった治療選択ができるように、是非“患者力”を磨いていただきたいと思います。
当講座では、患者様とご家族向けに腎不全教室を開催しています。腎機能を悪化させないための日常生活の注意点や、食事療法、検査の見方、お薬の効果などを是非知っていただき、体調管理に活かしていただきたいと思います。
*他院にご通院中の患者様で、当院の腎不全教室への参加をご希望される場合には、一度当院の第三内科(腎臓内科)を受診されて下さい。その際には紹介状をお持ちください。受診後、教室にお申込みいただけます。
詳細はこちら
第5回腎不全教室
B講習を平成24年8月20日に開催しました。今回も多くの患者様とご家族にご参加いただきありがとうございました。B講習は栄養指導と代替療法(透析・移植)、福祉制度についてがテーマです。栄養指導では、皆様に1杯0.4gの減塩みそ汁を試飲していただきました。出汁をしっかり取ることで、減塩とは思えない程おいしいみそ汁ができます。他にも、栄養士さんからおいしい減塩・低蛋白ちらし寿司のレシピも教えてもらいましたので、ご紹介します。
○減塩みそ汁(5人分)
材料;かつお節 7.5g
水 400ml(出汁300ml分)
混合味噌または赤みそ 10g(小さじ2弱)
白味噌 10g(小さじ2弱)
具材 適宜
作り方;①水が沸騰したらかつお節を入れて軽く煮立たせ、だしをとる。
②好みの具材を入れて煮立たせ、火を消して最後に味噌を溶き入れる。
③自分自身の分をお玉1杯(60~70ml)よそう(飲む量にも注意!)。
ポイント;*調味料は後から足せますが引くのは難しいです。最初は薄めにすることが大切です。
*自分のみその量は小さじ1と決めておけば、だしの量を増やしても塩分は変わりません。
*汁少なめ・具だくさんにしましょう。時々は味噌なしのカツオ湯を味わうのも◎
○減塩ちらし寿司(1人あたりの材料)
材料;具材
海老 2尾(30g) 卵 15g(+油小さじ1)
きゅうり 15g 人参 10g
シソ 2g 椎茸(乾)1g
レンコン 15g
酢飯
米飯 160g
米酢 小さじ2
レンコン酢漬け材料
A 酢 小さじ2
オリゴ糖 小さじ1
B かつおだし 50㏄ 酒 小さじ1
オリゴ糖 小さじ1 生姜 1g
減塩醤油 小さじ1/2
*最後にかけて調整;減塩醤油 小さじ1、ごま油 小さじ1、白ゴマ 小さじ1/2
*写真は1人前の分量です。
1人前;410kcal、蛋白13.4g、塩分1.5g、カリウム311㎎、リン254㎎
作り方(4人分)
①米2合を研いで30分程浸水させて炊く。
②レンコンは薄切りにし3分茹でて水にさらし、A調味料で酢漬けにする。
③人参はみじん切り、椎茸は水に戻してみじん切りし、茹でこぼしてB調味料で水分がなくなるまで煮
込む。
④きゅうりは1㎝角、シソは細切りにする。
⑤ご飯に酢・③を切るように混ぜ合わせる。
⑥海老は殻つきのまま2~3節目を竹串で刺して背ワタを取る。片栗粉で揉んで水で洗う。
⑦真っすぐになるように腹に竹串を刺して2分程茹で、お腹を開いて形を整える。
⑧卵を焼いて細切りにする。
⑨酢飯を盛り付け、錦糸卵を広げ、きゅうり・酢漬レンコン・海老・シソを盛り付ける。
⑩最後にごま油・減塩醤油・白ゴマをふりかけ完成!
沖縄腹膜透析基礎コース講習会に参加して
去った2012年10月6日(土)に、看護師を対象に沖縄腹膜透析基礎コースが開催されました。この研修の目的は、腹膜透析について理解を深め、手技の獲得と患者指導法を学ぶことです。離島を含め県内各地15施設から看護師32名が参加されました。腹膜透析に従事している看護師さんはもちろんのこと、これから携わる可能性のある病院、診療所、訪問看護ステーションからもご参加いただきました。
私は出口部ケア、バック交換の実技講師を担当しました。腹膜透析に携わって、まだ1年ですが、患者さんが困っているシャワー浴方法、出口部ケア、テープ固定、カテーテル収納など、患者さんと共に試行錯誤し考えたアイディアや工夫を、受講生の皆さんにお伝えすることができました。「テープの皮膚かぶれで、テープ固定に困っている。」など、ケアの方法に悩んでいる他院の状況を、グループでアイディアを出し合ったり、情報交換したりして、皆で対処法を話し合い、私も学ぶことができました。
又、バック交換の実技では、災害時に使用できる手動での交換方法も学ぶことができました。
会場は終日熱気にあふれ、「このような研修をまたやって欲しい。」と、参加者からの声も多数聞かれ大盛況でした。
目から鱗のような話しが聞け、実際に自院でも活かしていきたいと看護魂に火がついた看護師さんもいたのではないでしょうか。私もその一人です。
期日は未定ですが、近日、中・上級ステップアップコースを予定していきます。
これから沖縄県でも、腹膜透析患者さんが増えていくと思われます。病気と共存しながらも、生き生きと人生を楽しんでおられる患者さん達のサポートができるよう一生懸命勉強していきたいと思います。